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月夜のゆき [おはなし]

ゆきは、真っ白な猫でした。
森で生まれたほかの兄弟ネコたちと同じで、小さい頃から、人間は怖いものだと教わって育ちました。
だから、皆で追いかけっこをして遊んで、ついつい、森の外に出てしまうことがあっても、人間の姿を見ると、たちまち木の陰に隠れて息を潜めるのでした。

でも森の中には、食べるものも、遊ぶところも兄弟もいるので、ゆきは毎日楽しく暮らしていました。

それでも、兄弟の中には、やがて人間に拾われていったり、喧嘩や病気がもとで死んでしまったものもいて、3年が過ぎたころ、気がつけば、ゆきは兄弟の中でただ一人、この森に残っていたのでした。

けれども、ゆきは、一人っきりだったわけではありません。
ゆきには、もう3匹の子供がいました。

今では「遠くに行くんじゃありませんよ」と、いたずら盛りの子供たちに注意しながら、すっかりお母さんとして、この森でまいにちを幸せに過ごしているのです。

実は、白ネコには昔っからのきまりがあります。
ゆきは、満月の夜には一人っきりでお月様に挨拶をしなければなりません。

昨夜は、その月に一度の満月でした。
子猫たちが寝たのを見届けて、ゆきは一人でお月様の見える、森の丘に登りました。

「お月様、こんばんは」
お月様に照らされて、ゆきの白い体はいっそう輝いていました。

そのとき、「おかあさーん」と鳴く、子供の声がしたように思いました。
ゆきはハッとしました。
ここは道路を渡った丘、まだ物事のわからない子供が来るには危なすぎます!
ゆきはあわてて子供たちのところへ戻ろうと、丘を降りて、道を渡りました。

そのとき!
人間を乗せた大きな黒い物体がものすごいスピードでやってきたのです。

いつもならゆきは、身を隠してそれが通りすぎるのを待っているのですが、こんな夜だし、子供が心配で急いでいて気がつかなかったのです。

次の日の朝、ゆきの冷たくなった白い体は、道の片隅に横たわっていました。
あれだけ、人間には気をつけなさいと子供たちに言っていたゆきだったのに・・・。



運転中に道路に横たわっていた白い猫をみて。
この猫も、ほんの少し前まで、温かで、楽しいことも仲間もいて、日々の暮らしがあったんだと思うと、いとおしくて・・。
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