霧の夜の出来事 [おはなし]
「すっかり遅くなっちゃった。ゴンとシロが待っとるやろね」
夕方ふった雨が深い霧になった深夜、音を無くしたように静まりかえった街を、時々、霧に拡散するヘッドライトとすれ違いながら、家路へ急いだ。
家のカギを開けると、なにやら中は話し声や笑い声がにぎやか。
ありゃ。
テレビ消し忘れてたあ?
あわてて居間の廊下に通じるドアを開けると、そこにはネコたちが!!
いや、シロとゴンだけなら、驚きはしない。
いつもシロに会いに来る若いシマクロ、ゴンそっくりの外ゴン、肌色の太ったボスネコ、お隣でご飯だけもらってるキジネコ等々・・・普段この辺りをすみかとしているネコたち、みんなが、楽しげに談笑の最中だった。
でも、ネコたちと私たちの目があうや否や、それまでの和やかな雰囲気は瞬時に緊張し、シロとゴンを残して、彼らは、疾風のように、開いていた窓から姿を消した。
あっけにとられている私の足下に、にゃーん(=「お帰り」)、と、いつものように寄り添ってくるシロ。
ゴンは、何事もなかったように、ネコ毛布の上でひと伸びすると、前足の上にあごを置き、背中を丸めて目をつぶった。
目の前にほんの数秒間起こった目を疑う出来事が、あらためて思い浮かぶ。
私たちが入ってきたとき、たしか、シロは、少女のコケティッシュな雰囲気で二本足でたっていた。
ゴンは、腕枕で寝ていたと思う。
他のネコたちも、足を組んだり、手をたたいたり、ネコ同士で肩に腕を回しあったり、まるで好きな恰好で楽しげにくつろいでいた。
いやそれどころか、そうだ!
たしかに、みいんな喋ったり笑ったり、談笑してたのだ、人間語で!
そう、玄関先で聞こえた言葉は、テレビなんかじゃない、独特の抑揚のあるネコの話し声だった!
でも、ようやくそこまで気づいた時は、偶然垣間見たネコたちの姿は、既に夢ごとのように消えてしまったあと、ゴンとシロも知らぬ存ぜぬ、何もなかったかのようで、閉め忘れていた窓の外には変わらぬ濃い霧が漂っていた。
霧の深い真夜中、そっとネコたちを覗いてみてください。
そこには、見たい人にだけ見える、ほんとうのネコの世界が広がっているようです。
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